RESEARCH GUIDE / 2026.08.11

性欲は「相手ごと」に
固定されるのか?

「一人では性欲があるのに、パートナーには湧かない」「恋人がいても別の人が気になる」という経験は、性欲を一つの点数だけで表すと読み違えやすくなります。パートナーへの欲求、代替対象への関心、一人での欲求・行動、実際の行動と同意を分け、カップル研究の対象と限界を確認します。

公開日 2026年8月11日 / 最終更新 2026年8月11日 / 欲望の時間割 編集部

「パートナーへの欲求がない」を一つの原因や判定にしない

2024年の研究では、結婚したばかりの人の42日分の日記で、普段より代替対象への関心が高い日ほど、パートナーへの性欲も高いという個人内の関連が報告されました。別の実験では、代替対象への性欲を思い出す課題を行った人は、対照条件よりパートナーへの性欲を高く報告しました。

ただし、これは「誰でもパートナーと他の対象に同じ欲求を持つ」「他の人への関心が関係を良くする」「パートナーへの欲求がないのは問題ではない」という意味ではありません。2025年の研究では、日々のパートナーとの相互作用や、欲求を一人の特性ではなく関係の中の状態として測る視点も示されています。

「誰に向いた欲求か」を研究ごとに分ける

研究対象・方法測ったもの主な読み方
Human Nature
2024・Study 1
新婚の98組、最終分析196人。結婚後2年の3波、各14日の日記。その日のパートナーへの性欲、代替対象への関心。同じ人の普段との差を比べると、代替対象への関心が普段より高い日ほどパートナーへの欲求も高かった。日記だけでは因果は決めない。
Human Nature
2024・Study 2
6か月以上の長期関係にある成人。最終分析405人、平均42.79歳。3条件への無作為割付。パートナーまたは代替対象への性欲を想起させる課題後の、二つの対象への欲求。代替対象への性欲を想起した条件は、対照条件よりパートナーへの欲求が高かった。パートナー想起から代替対象への増加は同じ形では支持されなかった。
Journal of Sex Research
2025
混合性別のカップル163組、N=326。平均30.3歳。22日間の日記、一部に相互作用課題。パートナーへの日々の欲求、愛着・性・探索のニーズを満たす相互作用。日々の欲求の上下は、各パートナーが何を与え、受け取り、満たしたと感じたかと関連した。欲求を固定的な個人特性だけで見ない。
Archives of Sexual Behavior
2022
単身者・交際中の人を含む予備研究n=572、追跡研究N=1,238。関係状態と性別をまたぐ尺度検証。一人の欲求・行動、パートナーとの欲求・行動、性的満足度。交際中の人では、パートナーに関わる欲求が高く、一人の欲求が低いことが満足度と関連した。欲求と行動頻度、希望と実際も別に測られた。

※ 研究の「代替対象」は、参加者が想起した対象や質問票上の対象です。関心の報告は、実際の接触や関係上の合意・行動を意味しません。

「性欲がある」を、五つの問いに分ける

「性欲」という言葉は便利ですが、誰に向いた欲求か、どの行動を望むか、どの程度実際に行ったかを一度に表しません。調査票の項目が違えば、同じ人でも結果は変わり得ます。

パートナーへの性欲

今のパートナーと触れ合う、キスする、性行為をするなど、特定の相手に向いた欲求。相手との関係やその日の相互作用と結びつきます。

代替対象への関心

パートナー以外の魅力的な人を想像する、気づく、話す、関心を持つなど。報告された関心は、接触や関係の選択とは別です。

一人の欲求・行動

自慰など、パートナーを必要としない性的な欲求や行動。パートナーへの欲求と同じ方向に動くとは限りません。

満足度・苦痛

性欲の強さではなく、本人が性生活をどう評価するか、また差や変化をどの程度つらいと感じるかというアウトカム。

「一人ではできる/したいのに、パートナーとはしたくない」という一文だけでは、欲求の対象、覚醒、満足度、関係の安全、身体的な痛み、同意の状況までは分かりません。

「相手特異的ではない」という研究は、何を示したか

Petersらの2024年研究は、同じ人の中で日々変化するパートナーへの欲求と、代替対象への関心を分けて測りました。Study 1では、196人・98組の新婚者を、結婚後2年にわたる3波の日記で追跡しました。平均値が高い人と低い人を比べるのではなく、本人の普段からの変化を中心に分析した点が重要です。

Study 2では、長期関係にある成人405人を、パートナーへの性欲を想起する条件、代替対象への性欲を想起する条件、対照条件に無作為に割り当てました。代替対象への性欲を想起した条件では、対照条件よりパートナーへの性欲が高く報告されましたが、この実験は短い想起課題後の自己報告を測ったものです。

研究が支える範囲

パートナーへの欲求と代替対象への関心が、同じ人の中で正に連動する場面があり得ること。相手への欲求を一つの固定的なスイッチとみなさないこと。

研究が支えない範囲

代替対象への関心がある人は浮気すること、パートナーへの欲求がない人は関係を終えるべきこと、想起課題を実生活の行動指示に変えること。

著者らも、二つの研究は自己報告を使い、実際の行動結果までは調べていないと説明しています。Study 1は主に異性の代替対象を測る設計で、すべての関係形態へそのまま一般化できません。

欲求は、関係の相互作用の中でも上下する

Prekatsounakiらの2025年研究は、性的欲求を個人の安定した特性だけでなく、二人の相互作用の中の状態として扱いました。163組のカップルが22日間、パートナーへの日々の欲求と、愛着・性・探索に関するニーズをどう満たしたかを報告し、一部のカップルには相互作用の課題が提示されました。

日々の欲求は、本人が何を与え、受け取り、相手がどう応答したと感じたかと関連しました。女性の欲求には、パートナーが愛着的な相互作用で何を与え、性的・探索的なニーズにどう応答したと本人が感じたかも関連しました。この結果は、関係の相互作用が欲求の変動に関わり得ることを示しますが、特定の会話や行動を全員に処方する研究ではありません。

「パートナーに性欲がない」を本人の魅力や愛情だけの問題にせず、欲求の対象・日々の変動・相互作用・苦痛を分けて確認します。ただし、同意のない圧力を「相互作用の改善」と呼び替えてはいけません。

一人の欲求とパートナーへの欲求は、同じ満足度指標ではない

ParkとMacDonaldの研究は、単身者と交際中の人を含め、一人の性的活動とパートナーとの活動を区別しました。予備研究で572人、二つの追跡研究で1,238人を用いて尺度の不変性を確認し、関係状態をまたいで比較しています。

交際中の人では、パートナーに関わる欲求が高いことと、一人の欲求が低いことが性的満足度と関連しました。また、実際のパートナーとの行動頻度と、望んでいる頻度の差も別に分析されています。これは「一人の行動が多いと必ずパートナーへの欲求が低い」という因果を示す結果ではありません。

研究はCOVID-19パンデミック中のデータを含むため、生活環境・関係状態・性的機会の影響にも注意が必要です。満足度は欲求の強さそのものではなく、本人の評価です。

欲求・想像・行動・同意を一つにしない

論文で代替対象への関心や性的想像が測られていても、それは実際に誰かへ接触すること、パートナーとの合意を破ること、行動を望んでいることを意味しません。同じように、パートナーへの欲求が報告されても、相手がいつでも応じる義務や、頻度の目標が生まれるわけではありません。

研究から分かること

誰に向いた欲求か、日々の変動があるか、欲求と満足度がどう関連するか、相互作用と同時にどう動くか。

研究から決められないこと

関係を続けるべきか、性行為を増やすべきか、他の人と行動すべきか、どちらが「正常」かという個人の判定。

「パートナーにだけ性欲がない」を読む5つの確認

  1. 誰への欲求か:パートナー、代替対象、一人の活動、一般的な性欲を分ける。
  2. 欲求か行動か:想像・質問票の回答・実際の頻度・同意のある行動を混同しない。
  3. いつの値か:一時点の自己報告か、日記で本人の普段との差を追ったか。
  4. 関係の状態か:相互作用、応答性、満足度、苦痛、身体症状、薬やストレスを別の問いとして確認する。
  5. 因果を急がない:対象への関心を浮気や愛情の判定に、欲求の差を片方の責任に変換しない。

急な変化、強い苦痛、痛み、薬の変更、安全や同意をめぐる不安がある場合は、研究の平均や相手への評価で処理せず、医療機関や信頼できる相談先で個別に扱う境界です。

参考文献

  1. Peters, S. D., Maner, J. K., & Meltzer, A. L. (2024). Sexual desire is not partner-specific: Evidence for a positive association between desire for one’s romantic partner and desire for alternative partners. Human Nature, 35, 323–346. DOI 10.1007/s12110-024-09478-2PMID 39269591
  2. Prekatsounaki, S., Loeys, T., & Enzlin, P. (2025). Understanding the Ebbs and Flows of Sexual Desire: A Daily Diary Study on the Temporal Associations Between Dyadic Sexual Desire and Partner Interactions. The Journal of Sex Research, 62(5), 843–853. DOI 10.1080/00224499.2024.2393378
  3. Park, Y., & MacDonald, G. (2022). Single and Partnered Individuals’ Sexual Satisfaction as a Function of Sexual Desire and Activities: Results Using a Sexual Satisfaction Scale Demonstrating Measurement Invariance Across Partnership Status. Archives of Sexual Behavior, 51, 547–564. DOI 10.1007/s10508-021-02153-yPMID 34997399

出典は2026年8月11日に出版社ページ・PubMed・DOI・著者公開論文の書誌情報と抄録・本文を確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。

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