RESEARCH UPDATE / 2026.08.11

性欲のピークは何歳?
研究で答えが変わる理由

「男性は20代、女性は40代」「31歳で逆転」という説明は、ひとつの分かりやすい物語です。ただし、研究が同じものを測っているとは限りません。2026年の大規模研究と、欲求の種類を分けた2022年研究を並べると、答えはもっと条件付きになります。

公開日 2026年8月11日 / 最終更新 2026年8月11日 / 欲望の時間割 編集部

単一の「普遍的なピーク年齢」は決めにくい

2026年のScientific Reports論文では、エストニアの大規模コホートの成人67,334人を分析し、2項目から作った自己報告の性欲指標で、男性の平均値が女性より高く、男性の欲求は30代後半〜40代前半にピークが見えると報告されました。一方、女性の平均値は年齢とともに低下し、特に50歳以降の低下が大きいという結果です。

2022年の8,150人研究では、パートナーへの欲求・魅力的な他者への欲求・一人での欲求を分けて測定しました。年齢との関係は欲求の種類と男女で異なり、単純な直線ではありません。したがって、異なる研究から「男女が必ず何歳で逆転する」とひとつの年齢を取り出すことはできません。

まず、何を比較しているか

研究対象・設計何を測ったか年齢について
Scientific Reports
2026
エストニアのEstonian Biobank。最終N=67,334、20〜84歳。2021〜2022年のオンライン調査を用いた横断的分析。「強い性的衝動がある」「性についてあまり考えない」の2項目から作った標準化スコア。男性は30代後半〜40代前半にピークが見え、男女とも年齢とともに低下。女性の低下は特に50歳以降で大きい。
Archives of Sexual Behavior
2022
オンラインサンプルN=8,150、年齢14.6〜80.2歳。分析では欲求の種類を分け、個人差も検討。SDI-2で、パートナーへの欲求、魅力的な他者への欲求、一人での欲求を別々に測定。男女とも非線形の年齢傾向。女性の一人での欲求は30代にピークが見られ、他の欲求とは曲線が異なる。
Journal of Sexual Medicine
2025
月経のある閉経前女性588人の二次分析。血中テストステロン等と、女性性機能質問票の欲求・覚醒領域。ホルモンのプロフィールだけでは、低い欲求や覚醒を明確に識別できなかった。

※ 各研究の分類語を日本語で要約しています。研究間で対象・尺度・分析方法が違うため、数値を同じ0〜100の曲線へ換算していません。

6.7万人研究が示したこと

Aavikらの研究は、Estonian Biobankの調査データから、年齢、性別、性的指向、交際状況、子ども、最近の出産、関係満足度、学歴、職業と自己報告の性欲の関連を調べました。最終分析は20〜84歳の67,334人で、女性46,879人、男性20,456人です。

平均値の差

男性の平均標準化スコアは0.65、女性は−0.28でした。効果量η²は0.18で、研究内では性別と年齢が主要な予測因子でした。

年齢の曲線

男性の欲求は30代後半〜40代前半にピークが見え、その後は低下しました。女性は年齢との負の関連がより強く、特に50歳以降の低下が目立ちました。

関係性の効果

関係満足度と欲求には正の関連がありましたが、相関は小さく、r=0.08でした。平均差が見えたことと、個人の原因を説明できることは別です。

説明できた範囲

人口統計・関係性の変数を含むモデルが説明した分散は28.3%でした。残りの要因や個人差が大きいことも、同じ結果から読み取れます。

この研究は「男性は必ず高い」「女性は必ず低い」と言っているのではありません。集団平均では差が観察されても、同じ年齢の個人同士には大きな重なりがあります。

「性欲」を分解すると、ピークも分かれる

Wieczorekらの2022年研究は、性欲をひとつの合計点だけで扱わず、SDI-2の下位尺度を使って、パートナーへの欲求、魅力的な他者への欲求、一人での欲求を区別しました。女性のパートナー関連の欲求は20代半ば〜40代半ばで上向きの効果が頭打ちになった後に低下し、女性の一人での欲求は30代にピークが見られました。男性側も40歳前後まで上向き、その後に複雑な変化が見られます。

この研究の回帰モデルが説明した分散は小さく、年齢だけで個人の欲求を予測できるわけではありません。むしろ重要なのは、同じ「性欲」という言葉でも、誰に向いた欲求か、行動の可能性があるか、関係性の文脈があるかで年齢との関係が変わることです。

  • パートナーへの欲求:現在の関係性や親密さと切り離して読めない。
  • 魅力的な他者への欲求:交際状況や社会的文脈の影響を受ける。
  • 一人での欲求:パートナーの有無や、欲求を表現できる機会と同じではない。

ホルモンのピークと、欲求のピークは別物

テストステロンやエストロゲンの年齢曲線を、そのまま性欲の曲線に置き換えることはできません。2025年の研究では、閉経前で月経のある女性588人について、血中テストステロン・DHEA・アンドロステンジオンと、性欲・覚醒の質問票を組み合わせて分析しましたが、ホルモンのプロフィールだけでは低い欲求や覚醒を明確に識別できませんでした。

これはホルモンが性機能に関係しないという意味ではありません。研究が示すのは、血液中の値ひとつを、欲求そのものや個人の診断に置き換えるのは不十分だということです。年齢、睡眠、健康状態、服薬、心理状態、関係性、性的指向や文化的な表現のしやすさを、別の変数として扱う必要があります。

「20代・40代」「31歳」をどう読み直すか

言えること

研究によって、年齢と自己報告の性欲に関連する曲線は観察されています。2026年研究では男性のピークが30代後半〜40代前半に見え、2022年研究では欲求の種類ごとに非線形の傾向が示されました。

言えないこと

日本人全体に当てはまる普遍的なピーク年齢、男女の性欲が必ず交差する31歳、ホルモン値から個人の性欲を逆算することは、この3研究だけからは言えません。

トップページの「男性20歳前後・女性40歳前後・約31歳の逆転」は、研究の傾向を編集部が0〜100に再構成した参考値であり、単一の原著研究から直接得た交点ではありません。トップの視覚的な物語を入口として残し、研究ページではその前提と限界を明らかにする、という役割分担にしています。

研究を自分に当てはめる前に

  • 2026年研究はエストニアのBiobank参加者を対象にした横断的な分析で、調査時期は2021年11月〜2022年4月です。日本の人口や、現在のすべての世代へそのまま一般化はできません。
  • 同研究の性欲指標は2つの自己報告項目から構成されています。性行動の頻度、性的満足度、覚醒、勃起や潤滑などを直接測ったものではありません。
  • 2022年研究は年齢範囲が広いオンラインサンプルですが、年齢だけでなく、性的指向、関係状況、健康の自己評価なども関係します。モデルが説明した割合は小さく、個人の予測器ではありません。
  • 「男性」「女性」は各研究の分類に基づく表記です。性自認、性的指向、身体状態の多様性を、2つの平均値に押し込めることはできません。

性欲の急な変化、苦痛、痛み、服薬開始後の変化がある場合は、自己判断で薬を中止せず、泌尿器科・婦人科・性医学などの医療機関へ相談してください。

参考文献

  1. Aavik, T., Täht, K., Vainik, U., & Mõttus, R. (2026). Associations of Sexual Desire with Demographic and Relationship Variables. Scientific Reports, 16, 215. DOI 10.1038/s41598-025-23483-0
  2. Wieczorek, L. L., Chivers, M., Koehn, M. A., DeBruine, L. M., & Jones, B. C. (2022). Age Effects on Women’s and Men’s Dyadic and Solitary Sexual Desire. Archives of Sexual Behavior, 51, 3765–3789. DOI 10.1007/s10508-022-02375-8PMID 35916987
  3. Werner, M. A., Van Lissa, C. J., Both, S., Skiba, M. A., Bell, R. J., & Davis, S. R. (2025). Profiles of testosterone and pre-androgens and sexual function in premenopausal women. The Journal of Sexual Medicine, 22(3), 424–431. DOI 10.1093/jsxmed/qdae195PMID 39827084

出典は2026年8月11日に原文・抄録・書誌情報を確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。

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