RESEARCH GUIDE / 2026.08.11
「性欲スコア」は
何を測っている?
年齢別のグラフを見ると、性欲が0〜100の共通メーターで測れるように感じます。実際の研究では、質問の文面、欲求の向き先、回答尺度、対象者が違います。数字を自分や他人の診断書にしないために、研究で何が測られているかを先に分けます。
性欲は、研究ごとに定義された複数の構成概念
2026年の6.7万人研究は、「強い性的衝動がある」「性についてあまり考えない」という2項目から標準化した自己報告指標を作りました。これは性行動の頻度や満足度を直接測った0〜100点ではありません。
一方、SDI-2はパートナーへの欲求、魅力的な他者への欲求、一人での欲求を分けて尋ねます。SDEF1のように、性的欲求の表現や否定的感情、応答的欲求まで分ける尺度もあります。研究間で数字をそのまま足し引きする前に、何を尋ねた数字かを確認する必要があります。
2026年の成人358人研究では、性欲と覚醒を性的興奮・抑制、愛着傾向、関係期間との関連から分析しました。性的欲求、覚醒、性行動、関係性の要因が同じ一つの点数へまとまるわけではなく、尺度の構成と分析モデルを確認する必要があります。
2026年のHISD-SF研究は、親密な関係にある人を対象にした25項目のHurlbert Index of Sexual Desireを9項目へ短縮しました。3つの独立サンプルで検証した結果、全体の性欲因子は高い信頼性を示しましたが、sex drive、知覚された欲求の十分さ、パートナー特異的欲求という下位因子の信頼性は低〜ごく小さく、今回のサンプルでは全体スコアとして読むほうが支持されました。
同じ「性欲」でも、測定単位が違う
| 研究・尺度 | 対象と方法 | 主に測ったもの | 読み方 |
|---|---|---|---|
| Scientific Reports 2026 | Estonian Biobankの最終N=67,334、20〜84歳。横断的なオンライン調査分析。 | 2項目から作った、自己報告のsexual desire指標。 | 大規模でも、2項目の指標を性行動・満足度・覚醒の総合点とは読まない。 |
| SDI-2 2022年研究 | 年齢14.6〜80.2歳のオンラインサンプルN=8,150。 | パートナー、魅力的な他者、一人での欲求。 | 「誰に向いた欲求か」を分けると、年齢曲線も一つではなくなる。 |
| SDI-2 国際検証 | 42か国・26言語、N=82,243のInternational Sex Survey。 | 三つの領域の因子構造と、信頼性・測定不変性。 | 比較に使える尺度でも、日本人全体の年齢基準や個人の正常値を自動的に作るものではない。 |
| SDEF1 2025 | イタリア一般人口のオンライン調査N=1,773、18〜78歳。 | 28項目、性的欲求、否定的感情、自慰的・パートナー関連・魅力的な他者への欲求、応答的欲求など。 | 欲求を多面的に測る設計。年齢別の単一ピークを決める研究ではない。 |
| Int J Impot Res 2026 | 成人358人(女性242人、男性116人、平均37.6歳)。オンライン便宜抽出による横断研究。 | 性的興奮・抑制、成人愛着、女性のFSFI、男性のIIEF、性欲・覚醒。 | 興奮・抑制と愛着不安は欲求・覚醒の一部と独立に関連したが、愛着がその関連を調整する交互作用は確認されなかった。関係期間も欲求と関連した。 |
| HISD-SF 2026 | 親密な関係にある人の独立した3サンプル(N=500、389、418)。Amazon Mechanical Turkで収集した訓練・検証・再現サンプル。 | 25項目HISDを短縮した9項目。全体の性欲因子と、sex drive、知覚された欲求の十分さ、パートナー特異的欲求。 | 全体スコアの信頼性は高かったが、下位因子の信頼性は低〜ごく小さかった。年齢・関係期間・ジェンダーで実用的かつ再現性のある項目バイアスは確認されなかった。 |
| DSDS日本語版 2024 | 日本語への翻訳・逆翻訳と、性的活動のある/ない女性を含むレビュー。 | 女性の性欲低下をスクリーニングする質問票の言語的妥当性。 | 臨床的な相談の入口と、集団平均を描く研究尺度は目的が違う。 |
※ 研究の年は、書誌上の発行年を基本に記載しています。国際SDI-2研究は2024年にオンライン公開され、2026年の巻号に掲載されています。
短い尺度でも、何を合計した点数かを確認する
Eisertらの2026年研究は、親密な関係にある人を対象に、25項目のHurlbert Index of Sexual Desire(HISD)から9項目のHISD-SFを作りました。Amazon Mechanical Turkで集めた3つの独立サンプル(訓練500人、検証389人、再現418人)を順に使い、探索的構造方程式モデリングとbifactor法で項目を絞っています。
9項目版は、全体の性欲因子が強く、sex drive、知覚された欲求の十分さ、パートナー特異的欲求という三つの特定因子を持つモデルとして表されました。全体の信頼性は高く、信頼できる分散の大半が全体因子に由来しました。一方、特定因子の信頼性は低〜ごく小さく、今回のサンプルでは9項目を下位尺度ごとに精密な別スコアとして解釈するより、全体スコアとして読むことが支持されています。
年齢・関係期間・ジェンダー
項目反応の差を調べるMIMIC分析では、年齢、関係期間、ジェンダーについて、実用上意味があり、かつ系統的に再現された項目バイアスは確認されませんでした。
この結果の範囲
三つのMTurkサンプル、親密な関係にある参加者、英語のHISD-SF検証での結果です。日本語版の妥当性、日本人の年齢基準、臨床診断のカットオフを自動的に示すものではありません。
「9項目なら性欲を一つの数字で完全に測れる」という意味ではありません。短縮版の全体スコア、下位因子、対象集団、翻訳の妥当性、苦痛や性機能の別測定を分けて確認します。
欲求・行動・覚醒・満足度は別の変数
日常会話では「性欲が強い」が、考え、したい気持ち、実際の行動、身体の反応、経験への評価をまとめて指すことがあります。研究ではそれらを別々に尋ねることが多く、一つの結果から別の結果を推測できるとは限りません。
性的欲求(desire)
性行為や性的な対象を求める気持ち、衝動、空想など。誰に向くか、状況に応じるかで下位概念が変わります。
性行動・頻度
実際に性行為や自慰をした回数など。欲求があっても機会がないことがあり、頻度だけでは欲求の強さを表せません。
覚醒(arousal)
主観的な興奮や身体的反応。欲求が先にある場合も、応答的に生じる場合もあり、欲求と同じ尺度ではありません。
満足度・性機能
経験への評価、痛み、勃起・潤滑など。欲求の量だけでは満足度や困りごとの有無を判断できません。
血中テストステロンなどのホルモン値も、性欲そのものの代替変数ではありません。2025年の研究では、閉経前女性588人について、ホルモンのプロフィールだけで低い欲求や覚醒を明確に識別できませんでした。
欲求と覚醒は、興奮・抑制・愛着を一つの原因にしない
van Lankveldらの2026年研究は、女性242人・男性116人の成人358人(平均37.6歳)を対象に、性的興奮・抑制尺度、成人愛着尺度、女性のFSFI、男性のIIEFなどを使ったオンライン横断調査です。臨床診断を受けた人だけの治療試験や、年齢別の性欲曲線を作る研究ではありません。
回帰分析では、性的興奮・抑制が性欲や覚醒の一部と独立に関連し、愛着不安は覚醒の一部と関連しました。関係期間は性欲と負の関連を示し、男性と分類された参加者は性欲・覚醒が高い方向でした。一方、愛着傾向が興奮・抑制と性欲・覚醒の関連を変える交互作用は確認されませんでした。
ここでの「関連」は原因や相性の診断ではありません。性欲、覚醒、抑制、愛着、関係期間は別の測定で、女性はFSFI、男性はIIEFという異なる機能尺度も使われています。性欲の変化や苦痛を一つの性格特性・性別・交際期間へ還元せず、本人の体験と文脈を分けて確認します。
トップの0〜100は「原著の共通点数」ではない
トップページの年齢別曲線と0〜100の数字は、複数の研究領域を参照して編集部が再構成した参考値です。2026年研究の2項目スコア、2022年研究のSDI-2、ホルモン研究の結果を、一つの原著データセットとして混ぜたものではありません。
このサイトでは、トップを視覚的な入口として残し、研究ページで「どの研究が何を測ったか」を分けて説明します。したがって、トップの20歳・40歳・約31歳という数字を、特定の個人の予測値や、日本人全体の確定した標準値として扱わないでください。
比較してよい問い
同じ尺度、似た対象、同じ定義、同じ分析方法か。平均値の差が、どの構成概念について報告されているか。
比較しないほうがよい問い
別の質問票の点数を0〜100に換算して順位づけすること。集団平均から「あなたは何歳でピークか」を逆算すること。
研究の数字を読む5つの確認
- 構成概念:性欲、性行動、覚醒、満足度、性機能のどれを測ったか。
- 質問の中身:単一項目か、複数項目の尺度か。誰に向いた欲求を尋ねたか。
- 対象者:年齢、性別の分類、性的指向、国、交際状況、臨床集団か一般集団か。
- 研究デザイン:横断研究なら、年齢差を個人の生涯変化や原因とは読まない。
- 平均と個人:平均の曲線に、同じ年齢のすべての人が乗っているわけではない。
- 関連と交互作用:興奮・抑制、愛着、関係期間が性欲や覚醒と関連しても、単一の原因や個人の診断にはならない。
「性欲が低いのは異常か」という問いは、平均値の順位とは別です。苦痛、急な変化、痛み、服薬開始後の変化などがある場合は、自己判断で薬を中止せず、泌尿器科・婦人科・性医学などの医療機関へ相談してください。
参考文献
- Aavik, T., Täht, K., Vainik, U., & Mõttus, R. (2026). Associations of Sexual Desire with Demographic and Relationship Variables. Scientific Reports, 16, 215. DOI 10.1038/s41598-025-23483-0
- Wieczorek, L. L., Chivers, M., Koehn, M. A., DeBruine, L. M., & Jones, B. C. (2022). Age Effects on Women’s and Men’s Dyadic and Solitary Sexual Desire. Archives of Sexual Behavior, 51, 3765–3789. DOI 10.1007/s10508-022-02375-8 / PMID 35916987
- Castro-Calvo, J., Beltrán-Martínez, P., Ballester-Arnal, R., et al. (online 2024; 2026 issue). Cross-Cultural Validation of the Sexual Desire Inventory (SDI-2) in 42 Countries and 26 Languages. The Journal of Sex Research, 63(5), 755–768. DOI 10.1080/00224499.2024.2417023 / PMID 39560207
- Nimbi, F. M., Galizia, R., Ciocca, G., et al. (2025). Sexual desire and erotic fantasies questionnaire: development and validation of the sexual desire scale (SDEF1). International Journal of Impotence Research, 37(5), 394–406. DOI 10.1038/s41443-024-00942-2 / PMID 38926631
- van Lankveld, J. J. D. M., Dewitte, M., Janssen, E., & Verboon, P. (2026). Attachment orientation and sexual excitation and inhibition independently predict sexual desire and sexual arousal, but their interaction does not. International Journal of Impotence Research. DOI 10.1038/s41443-026-01307-7 / PMID 42373917 / 出版社ページ
- Eisert, B. C., Anderson, J. R., & Portillo, M. F. (2026). The Hurlbert Index of Sexual Desire-Short Form: Psychometric Properties. Archives of Sexual Behavior, 55, 2281–2298. DOI 10.1007/s10508-026-03487-1 / PMID 42393434
- 井上雅ほか (2024). 女性の性欲低下スクリーニング質問票(Decreased Sexual Desire Screener:DSDS)の日本語版作成と言語学的妥当性の検討. 日本泌尿器科学会雑誌, 115(4), 163–168. DOI 10.5980/jpnjurol.115.163
出典は2026年9月16日に原文・抄録・書誌情報を確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。
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