RESEARCH GUIDE / 2026.08.11

更年期で性欲は
下がる?

更年期や閉経を迎えると性欲は下がる、とひとまとめに語られがちです。しかし研究では、年齢、更年期の段階、欲求、覚醒、乾燥・痛み、オルガズム、満足度、本人の苦痛が別々に測られます。大規模な横断調査、4年縦断研究、ホルモン測定、2026年の小規模な無作為化試験を並べ、閉経を一つのスイッチにしない読み方を整理します。

公開日 2026年8月11日 / 最終更新 2026年8月11日 / 欲望の時間割 編集部

「更年期だから性欲が下がる」を、そのまま因果にしない

2025年の豪州AMY研究では、40〜69歳の女性を更年期段階などで分け、早期の周閉経期で欲求・覚醒の機能障害が多い領域が報告されました。ただし一時点の調査なので、閉経の前後で同じ人がどう変わったかや、更年期だけが原因かは分かりません。

2026年のAMYホルモン測定サブ研究では、選ばれた731人で、年齢や膣の乾燥などを調整した後、測定したホルモンと性欲・欲求困難の関連は確認されませんでした。小規模RCTでは一部の性機能領域に差が出ましたが、全体の性機能得点や複数領域の差が一貫して確定したわけではありません。年齢・段階・症状・ホルモン値・介入を分けて読む必要があります。

更年期と性機能を、研究デザインごとに分ける

研究対象・方法測ったもの主な読み方
AMY
2025
豪州の40〜69歳。全国代表を目指した調査のうち、条件を満たす5,468人を更年期段階などで分析。欲求、覚醒、性的反応、自己像、痛みなどの機能障害と、性的な苦痛。早期周閉経期で欲求・覚醒の機能障害が多い領域があった。横断研究なので、段階の違いを同一人物の変化や原因とは読まない。
Burri et al.
2015
英国女性507人(閉経前178人、閉経後329人)を4年間追跡。FSFIを繰り返し測定。欲求、覚醒、潤滑、オルガズム、満足度、痛みなどの領域間の時間的な関係。性機能の各領域には持続性と相互の時間差がある。更年期段階だけで全ての変化を説明する縦断研究ではない。
AMY
2026
AMYの血液測定サブ研究。閉経前136人、周閉経期・閉経後595人。LC-MS/MSでホルモンを測定。テストステロンなどの性ステロイド、女性性機能質問票、欲求と欲求困難。年齢、BMI、乾燥、関係性などを調整すると、測定したホルモンと欲求の関連は確認されなかった。うつ症状や向精神薬使用者などを除いた選択集団である。
Andrade et al.
2026
低い欲求を訴える閉経後女性47人。経皮エストラジオール単独または併用中に、テストステロンとプラセボを60日間比較。血中テストステロン、遊離アンドロゲン指数、FSFIの欲求・覚醒・潤滑・オルガズム・満足度など。ホルモン値は上がり、未調整では複数領域に改善が見られた。年齢・抗うつ薬使用を調整した群間差は主にオルガズム領域で、全体得点は境界的だった。

※ 研究の「機能障害」は質問票上の基準、「苦痛」は本人が困っている程度です。性欲の平均値、性機能、医療上の診断は同じものではありません。

「性欲が下がった」を五つに分ける

閉経後の性生活についての一言には、複数の構成概念が混ざります。研究のアウトカムが何だったかを確認すると、ホルモン・乾燥・痛み・欲求を一つの原因へ短絡しにくくなります。

更年期の段階

まだ月経があるのか、周閉経期なのか、閉経後なのか。段階は年齢と同じではなく、移行期の長さにも個人差があります。

欲求・関心

性的な考え、誘いへの関心、性行為を求める気持ち。パートナーへの欲求や一人の欲求など、対象も分けて測ります。

身体反応・痛み

覚醒、潤滑、勃起、膣の乾燥、性交痛など。痛みや乾燥があることと、欲求が弱いことは同じではありません。

オルガズム・満足度

到達しやすさ、快感、性生活への評価。欲求が保たれていても別の領域に変化が出たり、逆に満足度が保たれたりします。

「更年期で性欲がない」という表現だけでは、欲求、覚醒、乾燥、痛み、オルガズム、満足度、本人の苦痛のどれを指すのか分かりません。

段階の差と、同じ人の変化は別の問い

AMY 2025のような横断研究は、同じ時点にいる人を更年期段階や年齢で比べるのに向いています。早期周閉経期で欲求や覚醒の機能障害が多かったとしても、その人が閉経前からどの程度変化したのか、何が先に起きたのかは断定できません。健康状態、睡眠、気分、関係性、薬、乾燥や痛みが段階と一緒に変わっている可能性もあります。

Burriらの4年追跡は、閉経前・閉経後の女性を繰り返し測定し、欲求や覚醒などの領域が後の性機能とどう時間的に関連するかを見ました。これは「閉経日を境に性欲が落ちる」という単純なスイッチを検証したものではありません。出発点の違いと各領域の持続性を考えられる点が、年齢別の一時点比較との違いです。

横断研究で読めること

ある時点で、段階・年齢・症状のグループにどのような差があるか。集団の分布や検索者が抱える問いの輪郭。

縦断研究で読めること

同じ人の変化、出発点の持続、領域同士の時間的な関連。ただし観察研究なら、時間順序だけで因果は確定しません。

ホルモン値は、性欲そのものの検査ではない

AMY 2026のサブ研究は、テストステロンなどを高精度の血液検査で測りました。それでも、年齢、BMI、居住地、教育、関係性、喫煙・飲酒、性的指向、膣の乾燥、性的虐待経験などを調整した後、測定したホルモンと性欲・欲求困難の関連は確認されませんでした。

この結果は「ホルモンは性機能と無関係」という意味でも、「血液検査に意味がない」という意味でもありません。対象はAMYのうち血液提供に進み、甲状腺機能異常や高プロラクチン血症、強い抑うつ症状、向精神薬使用などを除いたサブ集団です。何を除外した研究かが、一般化の範囲を決めます。

測定値が基準範囲にある/ないだけから、本人の欲求の強さや性生活の満足度を判定することはできません。血液値、質問票、身体症状、本人の苦痛は別の情報です。

2026年の小規模RCTは、何を示し、何を示さないか

Andradeらの2026年試験は、50〜60歳で12か月以上月経がなく、低い欲求を訴える閉経後女性47人を対象にしました。全員が経皮エストラジオール単独、またはノルエチステロン併用のホルモン療法を受け、テストステロンの経皮製剤群23人とプラセボ群24人を60日間比較しました。

テストステロン群では血中値と遊離アンドロゲン指数が上がり、未調整のFSFIでは欲求や満足度を含む複数領域の改善が示されました。しかし、年齢と抗うつ薬使用を調整した群間比較では、統計的に有意だった差はオルガズム領域に限られ、FSFI総得点は境界的、他の領域は有意差が確認されませんでした。対象数が少なく、抗うつ薬使用にも群間の偏りがあり、結果を一般の更年期女性や治療選択へ広げられません。

研究が支える範囲

特定の背景療法、年齢、低い欲求を訴える集団、60日間の比較で、ホルモン値と一部の性機能領域がどう動いたか。

研究が支えない範囲

閉経後の人は全員テストステロンが必要だという判断、血液値だけの診断、長期の安全性、他の治療との優劣。

年齢以外の変化を、同じ表に置く

更年期の移行期には、睡眠、ほてり、気分、疲労、身体の痛み、膣の乾燥、関係性、薬の使用が同時に変わることがあります。欲求の変化を説明する研究では、これらが測定されたか、調整されたか、そもそも対象から除外されたかを確認します。

欲求の問い

性的な考えや関心、パートナーへの欲求、性行為への意欲が変化したか。対象と期間を明確にする。

身体の問い

乾燥、痛み、覚醒、潤滑、オルガズムなど、欲求とは別の領域に変化があるか。

生活の問い

睡眠、気分、疲労、薬、仕事、介護、関係性、性行為の機会が同時に変わっていないか。

苦痛の問い

変化が本人にとって困りごとか、相手や社会の「正常」観によって苦痛と扱われているだけではないか。

更年期と性欲の研究を読む5つの確認

  1. 年齢か段階か:年齢、周閉経期、閉経後を同じ変数として扱っていないか。
  2. 何を測ったか:欲求、覚醒、乾燥・痛み、オルガズム、満足度、苦痛を分ける。
  3. 同じ人の変化か:一時点のグループ差か、縦断の時間変化か、無作為化比較か。
  4. 何を除外・調整したか:気分、薬、睡眠、乾燥、関係性、身体疾患、ホルモン値の扱いを見る。
  5. 平均を個人へ移さない:集団の傾向を、本人の正常・異常や治療の必要性へ直結させない。

急な変化、痛み、出血、強い苦痛、気分の悪化、服薬やホルモン療法の変更が関わる場合は、記事の平均値で判断せず、婦人科や処方医などの医療者に相談する境界です。

参考文献

  1. Wang, Y., Islam, R. M., Bond, M., Skiba, M. A., et al. (2025). Sexual dysfunction in women at midlife: a cross-sectional study of data from the Australian Women's Midlife Years study. The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health, 1(3), e198–e208. DOI 10.1016/j.lanogw.2025.100024
  2. Burri, A., Hilpert, P., & Spector, T. (2015). Longitudinal evaluation of sexual function in a cohort of pre- and postmenopausal women. The Journal of Sexual Medicine, 12(6), 1427–1435. DOI 10.1111/jsm.12893PMID 25940696
  3. Wang, Y., Islam, R. M., Hodge, A., Handelsman, D. J., et al. (2026). Associations between testosterone and pre-androgens and sexual function; findings from the Australian Women's Midlife Years Study. Fertility and Sterility, online ahead of print. DOI 10.1016/j.fertnstert.2026.05.156PMID 42167520
  4. Andrade, V. P. C., Araujo Junior, E., Callado, G. Y., et al. (2026). Effect of transdermal testosterone on postmenopausal sexual desire: placebo-controlled randomized clinical trial. European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology, 324, 115242. DOI 10.1016/j.ejogrb.2026.115242

出典は2026年8月11日にPubMed・出版社ページ・大学研究ページ・DOIの書誌情報と抄録・本文を確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。

研究アップデート一覧へ戻る →
ホルモンと性欲の研究を読む →
性欲の測定方法を読む →
ストレス・疲労と性欲の研究を読む →
薬と性欲・性機能の研究を読む →
年齢研究の比較記事を読む →
トップの「欲望の時間割」へ戻る →