RESEARCH GUIDE / 2026.08.11

ホルモン値だけで
性欲はわかる?

テストステロンやエストラジオールの曲線を見ると、ホルモン値から性欲の強さを逆算できそうに見えます。一次研究を並べると、血中濃度、短期的な介入、月経周期、加齢変化、自己報告の欲求は、それぞれ違う問いを答えています。

公開日 2026年8月11日 / 最終更新 2026年8月11日 / 欲望の時間割 編集部

ホルモンは関係しうるが、単独の「性欲メーター」ではない

2025年の研究では、閉経前で月経のある女性588人について、テストステロン、DHEA、アンドロステンジオンを精密測定し、性欲・覚醒の質問票と組み合わせました。しかし、ホルモン濃度が異なるクラスの間で性欲に有意な差はなく、プロフィールだけで低い欲求を明確に識別できませんでした。

一方、2024年の無作為化試験では、健康な若い男女126人に短期間エストラジオールを投与しても、オルガスム頻度への効果はなく、性欲への効果も小さい結果でした。これはホルモンが無関係という意味ではなく、一つの血液値や短い操作から、生涯の欲望や個人の診断を決められないという意味です。

ホルモン研究を同じ「性欲の曲線」にしない

研究ホルモンの扱い欲求・性機能の扱い言える範囲
Journal of Sexual Medicine
2025
テストステロン、DHEA、アンドロステンジオンをLC-MS/MSで測定。Profile of Female Sexual Functionの欲求・覚醒領域。閉経前・月経あり女性588人。血中ホルモンのプロフィールだけで低い欲求・覚醒を明確に識別できない。
Psychoneuroendocrinology
2024
エストラジオール吉草酸を2日間投与し、短期的なE2上昇を操作。健康な若い男女126人の性欲とオルガスム頻度。二重盲検・無作為化・プラセボ対照。短期のE2上昇はオルガスム頻度に影響せず、性欲への効果も小さかった。
Scientific Reports
2024
血中ホルモンを直接測るのではなく、自然な月経周期の長さ・規則性を手がかりにした。米国のFlo利用者16,327人、18〜57歳。10か月のアプリ記録で、性行動・高い性欲の記録・自慰を集計。周期特性と性的動機づけの関連は小さく、実験的な因果は示さない。
European Journal of Endocrinology
2025
男性6,354人の連続したT、bioavailable T、SHBGを平均4.3年追跡。性欲は測定していない。男性のホルモン加齢変化を示しても、性欲の加齢曲線や原因を直接示す研究ではない。

※ 同じ「ホルモン研究」でも、測定・操作・代理指標・対象が違います。結果を一つの0〜100スコアへ換算していません。

血液中の値と、組織での作用、自己報告は別

Wernerらの研究は、閉経前・月経のある女性を対象に、複数の性ステロイドと性機能を同じ分析へ入れました。高い覚醒のクラスが、必ずしも高いホルモン濃度のクラスではありませんでした。性欲についても、ホルモン濃度の異なるクラス間で有意な差は見られませんでした。

測っているもの

採血時点のテストステロン、DHEA、アンドロステンジオン。測定法はLC-MS/MSで、研究としては精密です。

測っていないもの

脳や組織での作用、関係性、ストレス、睡眠、服薬、痛み、性的な機会などを、血中値だけで置き換えることはできません。

この研究は「ホルモンが性機能に無関係」と結論したものではありません。対象・測定法・分析範囲を超えて、単一のホルモン値を性欲の診断テストにしない、という読み方が必要です。

エストラジオールを一時的に上げても、結果は単純ではない

Auerらは、健康な若い男女126人を二重盲検・無作為化・プラセボ対照で調べ、エストラジオール吉草酸を2日間投与して短期的な上昇を作りました。オルガスム頻度には効果がなく、性欲への効果も小さく、研究者は排卵期の性欲上昇を短期E2上昇だけで説明するのは難しいとまとめています。

ここから分かるのは、観察研究の「周期と欲求が一緒に変わる」という関連を、すぐにホルモンの直接的な因果へ置き換えられないことです。投与量、期間、対象、ベースラインの欲求、他のホルモンや心理社会的条件が結果を左右します。

月経周期のデータからホルモン値を直接読まない

Mengelkochらは、ホルモン避妊薬を使っていない米国のFlo利用者16,327人を、18〜57歳、10か月のアプリ記録で分析しました。短い周期や規則性と性的動機づけには関連がありましたが、効果量は小さく、性的動機づけの記録が次の周期長を確実に予測することもありませんでした。

この研究で使われた「性的動機づけ」は、性行動、高い性欲、自慰のアプリ記録を集計したものです。血中エストラジオールやプロゲステロンを連続測定した研究ではありません。大規模な縦断データでも、代理指標は代理指標として読む必要があります。

男性のホルモン加齢研究も、性欲の曲線とは別

UK Biobankを使った2025年研究は、男性6,354人を平均4.3年追跡し、テストステロン、bioavailable testosterone、SHBGの連続測定と加齢変化を調べました。bioavailable testosteroneの変化は、遺伝的スコアよりも一部の併存疾患と関連していました。

ただし、この研究は性欲を測っていません。したがって、ホルモンの変化が示されたことから「同じ割合で性欲が下がる」「性欲低下の原因はホルモンだ」とは言えません。年齢・健康・服薬・睡眠・関係性・本人の困りごとを別々に扱う必要があります。

「ホルモンが性欲を決める」を見たら確認すること

  1. ホルモンは何か:総テストステロン、遊離・生物学的利用可能な値、DHEA、エストラジオールなどを区別する。
  2. 性欲は何か:欲求、覚醒、性行動、頻度、満足度、痛みのどれを測ったか。
  3. 時間軸は何か:一回の採血、2日間の介入、月経周期、数年の縦断追跡を同じ「変化」と扱わない。
  4. 対象は誰か:閉経前女性、閉経後女性、健康な若者、男性の集団などを越えて一般化しない。
  5. 臨床の問いか:平均の相関と、本人の苦痛や急な変化を評価する診療は別の目的である。

急な性欲の変化、痛み、強い苦痛、服薬開始後の変化がある場合は、検査値を自己解釈して薬を中止・開始せず、処方医や泌尿器科・婦人科などへ相談してください。このページは治療の指示や診断を行うものではありません。

参考文献

  1. Werner, M. A., Van Lissa, C. J., Both, S., Skiba, M. A., Bell, R. J., & Davis, S. R. (2025). Profiles of testosterone and pre-androgens and sexual function in premenopausal women. The Journal of Sexual Medicine, 22(3), 424–431. DOI 10.1093/jsxmed/qdae195PMID 39827084
  2. Auer, M. K., Joue, G., Biedermann, S. V., Sommer, T., & Fuss, J. (2024). The effect of short-term increase of estradiol levels on sexual desire and orgasm frequency in women and men. Psychoneuroendocrinology, 160, 106682. DOI 10.1016/j.psyneuen.2023.106682PMID 38056372
  3. Mengelkoch, S., Cunningham, K., Gassen, J., et al. (2024). Longitudinal associations between women’s cycle characteristics and sexual motivation using Flo cycle tracking data. Scientific Reports, 14, 10513. DOI 10.1038/s41598-024-60599-1
  4. Ogoniak, L., Sandmann, S., Varghese, J., et al. (2025). Role of genetics in the age-related testosterone decline in men: a UK Biobank study. European Journal of Endocrinology. DOI 10.1093/ejendo/lvaf143PMID 40673695

出典は2026年8月11日に原文・抄録・書誌情報を確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。

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