RESEARCH UPDATE / 2026.09.16

トランスジェンダーの性欲は、
年齢や治療でどう変わる?

トランスジェンダーやジェンダー多様な人の性欲を、出生時に割り当てられた性別や一つの平均だけで説明することはできません。性欲には、一人での欲求とパートナーへの欲求があり、年齢、性別適合治療、身体の変化、関係性が別々に関わり得ます。2025年の系統的レビュー・メタ分析を、測定された構成概念と限界から読みます。

公開日 2026年9月16日 / 最終更新 2026年9月16日 / 欲望の時間割 編集部

TGDの性欲に、全員共通の年齢曲線はない

Tarchiらの2025年メタ分析は、性欲を有効な質問票で測った成人のトランスジェンダー・ジェンダー多様な人(TGD)を対象に、6研究のSDIデータを量的に比較しました。出生時に男性と割り当てられた人(AMAB)1,105人、女性と割り当てられた人(AFAB)835人を合わせた1,940人で、一般人口の参照平均79,423人と比べています。

一般人口の参照平均よりTGDの性欲は低く、とくにパートナーへの欲求で差が大きい結果でした。ただし、十分な直接対照をもつ研究が少ないための参照平均比較であり、TGDの一人ひとりを「性欲が低い」と診断する割合ではありません。

読む鍵:一人の欲求、パートナーへの欲求、年齢、性別適合治療、出生時に割り当てられた性別の区分は、同じ一つの「性欲スコア」へまとめません。

同じ「性欲」でも、メタ分析の問いは三つある

問い対象・方法主な結果言える範囲
一般人口との比較SDIを使った6研究、TGD 1,940人。一般人口の参照平均79,423人とCohenのdで比較。AMAB・AFABのTGDはいずれも一般人口の参照平均より、一人の欲求・パートナーへの欲求・総合欲求が低かった。参照平均との比較であり、全てのTGDの診断や、直接比較した一つの国民調査ではない。
性別適合治療との関連性別適合治療(GAT)への曝露や期間と、SDIの領域をメタ回帰で検討。パートナーへの欲求と総合欲求はGATへの曝露と正に関連。一人の欲求とGATの関連は有意ではなかった。研究間の関連であって、GATが一律に欲求を増やすという介入効果ではない。
年齢と出生時区分年齢、GAT、年齢×GATの関連を分析。AMABとAFABのTGD内でも比較。高い年齢はパートナーへの欲求の低さと関連し、GAT後のパートナー・総合欲求の増加が小さい方向だった。AMAB・AFAB間の差は有意ではなかった。出生時区分は現在のジェンダー・アイデンティティそのものではなく、年齢の交絡や個人差を消す結果でもない。

※ 効果量やp値は原研究の要約です。一般人口の参照値、TGD内の比較、GATとの関連を同じ因果効果や個人の基準値へ換算していません。

一人の欲求と、パートナーへの欲求は別の結果だった

レビューはPubMed、Scopus、EMBASEを検索し、2025年1月に最終検索しました。事前登録したプロトコルとPRISMA 2020に沿い、性欲を有効な心理測定尺度で評価したTGD成人の研究を選びました。10研究が適格研究として整理され、そのうちSDIの平均値を使えた6研究が量的な比較に使われています。

一人での欲求

一般人口の参照平均より低い結果でしたが、年齢との関連は有意ではなく、GATへの曝露との関連も有意ではありませんでした。一人での欲求を、パートナーとの性欲や性生活の頻度の代わりにしないことが重要です。

パートナーへの欲求

一般人口の参照平均との差がより大きく、GATへの曝露とは正の関連がありました。年齢が高いほど低い方向の関連も見られましたが、関係性や身体的・心理的背景を一つの年齢効果に置き換えられません。

「欲求が低い」という平均差は、苦痛、望む性行為の形、関係の有無、身体とのつきあい方を直接測った結果ではありません。欲求の領域と本人の困りごとを分けて読みます。

性別適合治療との関連を、単純な「増減」にしない

メタ回帰では、GATへの曝露がある集団ほどパートナーへの欲求と総合欲求が高い方向に関連しました。一方、一人での欲求との関連は有意ではありませんでした。性欲の領域によって結果が違うため、「治療で性欲が上がる」「治療で必ず下がる」という一つの説明にはできません。

この分析は複数研究の集団平均を使った関連分析です。GATを受ける前後を同じ人で十分に比較した試験や、すべての治療法・期間・身体状態を同じ条件にした試験の結果ではありません。身体の性別違和、身体との関係、心理的負担、関係性、服薬、治療へのアクセスなどが研究ごとに異なる可能性も残ります。

性別適合治療を始める・止める・量を変える判断を、この平均結果だけで行いません。性欲や性機能の変化が気になる場合は、治療を担当する医療者へ、いつからどの領域が変わったかを共有します。

年齢の関連は「治療の効きにくさ」という診断ではない

年齢は、TGDのパートナーへの欲求と負の関連があり、GAT後のパートナー・総合欲求の増加が小さい方向の交互作用も報告されました。しかし、これは研究間のメタ回帰で見た関連です。年齢が原因であること、年齢が高い人には治療が効かないこと、ある年齢に固有の性欲があることを証明しません。

また、AMABとAFABのTGDの間で、一人の欲求、パートナーへの欲求、総合欲求に有意な差はありませんでした。AMAB・AFABは研究上の出生時区分で、現在のジェンダー・アイデンティティや、個人の性欲を二つの箱に分ける言葉ではありません。

研究を自分に当てはめる前の五つの確認

  1. 欲求の向き:一人での欲求、パートナーへの欲求、魅力的な他者への欲求、総合点のどれか。
  2. 比較の方法:同じ研究の直接対照か、別の一般人口研究から得た参照平均か。
  3. 治療の定義:ホルモン療法、手術、併用、期間、治療へのアクセスを同じ「GAT」としていないか。
  4. 区分の意味:AMAB・AFABは出生時に割り当てられた性別の分類であり、現在の性自認や性的指向と同じではない。
  5. 本人の問い:平均値の差、性欲の変化、性機能、苦痛、関係性の困りごとを別々に話せるか。

急な変化、痛み、強い苦痛、服薬や治療後の気になる変化がある場合は、自己判断で治療を中止・変更せず、ジェンダーを尊重して相談できる医療者へ相談してください。このページは診断や治療の指示を行うものではありません。

参考文献

  1. Tarchi, L., Mattesini, E., Ristori, J., Fisher, A. D., Ricca, V., & Castellini, G. (2025). Sexual desire in transgender and gender diverse individuals: a systematic review and meta-analysis. The Journal of Sexual Medicine, 22(11), 2141–2148. DOI 10.1093/jsxmed/qdaf252 / PMID 41014323 / 出版社ページ

出典は2026年9月16日にPubMed・出版社ページ・DOIを確認しました。研究の要約は日本語で再構成したもので、原文の長い引用ではありません。

研究アップデート一覧へ戻る →
年齢と性欲の比較記事を読む →
性欲の測定方法を読む →
ホルモンと性欲の研究を読む →
トップの「欲望の時間割」へ戻る →